IMFのトークン化株式研究:24時間市場の需要と受渡しの条件
営業時間を延ばすと、情報が価格になる場所も、現金と証券を用意する負担も変わる。トークン化株式の実証研究を手がかりに、取引の広がりを測る分母、原株との価格差を閉じる条件、受渡し方式の費用を読み解く。
記事の要点
- 01
分母が違えば結論も変わる
取引量、件数、利用者、資金の流入は別の尺度。小口注文の多さだけで大きな資金移動を推定しない。
- 02
価格を結ぶのは実行できる取引
共通の情報に反応することと、原株とトークンを交換できることを分けて考える。
- 03
営業時間だけでは足りない
参加資格、保管先、現金、原株の用意が同じ時間帯にそろって初めて価格差を取引で埋められる。
- 04
速さと資金効率を別々に測る
交換の安全性を高める設計でも、資金を早く拘束すれば別の費用が生じる。決済時点の選び方が重要になる。
- 05
普及後の運営を確かめる
通常時の利用増に加え、混雑時の約定、換金、例外処理まで追うことが市場の評価につながる。
SG Groupの見方:情報市場と引渡し市場を分けて読む
株式に連動するトークンの価値を考えるとき、最初に分けたいのは、情報を価格にする市場と、保有資産を別の形で引き渡す仕組みである。売買画面が動いていれば、参加者は将来の企業収益や金利の見通しを価格に織り込める。しかし、その価格で十分な量を売買し、売却代金を必要な場所へ移し、別市場の保有資産と入れ替えられるかは、さらに多くの条件に左右される。前者の進歩を後者の完成と読み替えると、新しい需要も残る費用も見えにくくなる。
国際通貨基金(IMF)は10月8日、トークン化研究を公表した。[1] 研究を起点に観測された取引を市場設計の問題へつなぐと、経済的な焦点は、従来の市場が薄い時間帯に生まれる注文を誰が引き受け、その負担をどの参加者へ配分するかにある。新技術の名称より、利用者と仲介者の間にどんな役割分担が生まれるかが重要になる。
分析の柱は三つある。まず、同じ経済対象を別の市場で取引するとき、どちらの価格がどの情報を先に示すのかを調べる。次に、価格差を埋める取引に必要な時間、参加資格、資産、支払手段を一つずつそろえる。最後に、交換を安全にする仕組みと、資金を節約する仕組みを分解する。この順番なら、技術の採用件数から経済効果へ飛躍せず、改善がどの工程で生じたかを確認できる。
問うべきは、誰の負担が減ったか
利用者の注文が小さくなり、営業時間が広がれば、参加の入口は増える。その一方で、仲介者は少額注文の照合や夜間の在庫管理を引き受けるかもしれない。利用者の便利さと仲介者の費用は両立し得るため、便利になったという評価だけでサービス全体の効率を決めるべきではない。手数料が低く見えても、売買価格の差、待機資金、為替換算、引出しにかかる時間へ費用が移る可能性がある。
SG Groupが重視するのは、トークン化によって取引が増えたかだけでなく、同じ経済的な目的を果たすために必要な資金と不確実性がどう変わったかである。たとえば夜間に価格を固定したい参加者と、翌営業日に確実な現金が必要な参加者は、同じ商品を見ても異なる価値を感じる。需要の用途を分ければ、普及を過大評価することも、既存市場との違いだけで一括して退けることも避けられる。
IMF研究が捉えた観測対象
標本の暦上の始点と終点は明記されない。[2] したがって、特定の政策発表前後を網羅した、あるいは現在の全商品を代表するといった読み方はできない。対象の範囲を狭く確定することが、結果を別の商品へ当てはめる際の出発点になる。
| 対象 | 内訳 |
|---|---|
| 原資産(5) | 指数:S&P 500、Nasdaq 100/株価:Tesla、Google、NVIDIA |
| 発行体(2) | Ondo、xStocks |
| 市場(11) | 中央集権型・分散型 |
この層の違いは重要である。原資産は連動先となる経済価値を示し、発行体は商品を成立させる契約や裏付けの仕組みを担う。取引場所は注文が出会う場所である。同じ原資産でも発行体が変われば請求できる相手が変わり、同じトークンでも取引場所が変われば参加者や価格提示の方法が変わる。この三つを一つの商品数へまとめると、どこで価格差が生じたかを説明できなくなる。
比較の単位を先に固定する
市場を比べる際は、原資産を固定して発行体だけを変える比較と、発行体まで固定して取引場所だけを変える比較を区別したい。前者なら権利や償還の違いを、後者なら注文の集まり方や手数料を検討しやすい。異なる株式と異なる取引場所を一度に比べると、企業固有の値動きと市場構造の影響が混ざる。統計の行数が多くても、その混在が自動的に解消されるわけではない。
また、売買が観測された期間は、誰もが同じ条件で参加できた期間と一致するとは限らない。商品追加、口座開設条件、価格提示者の参入によって市場の中身は変わり得る。継続比較では、同じ組合せを追う系列と、新規商品を加えた市場全体の系列を分ける必要がある。そうすれば、既存の市場が厚くなった効果と、観測対象が広がった効果を区別できる。
小口の普及と資金の厚みは違う
IMFの関連解説は、取引量の過半が米国の通常取引時間外に生じたと報告する。[3] これは営業時間を広げた場所が利用されているという証拠になる。ただし、従来市場から移った注文なのか、以前は成立しなかった追加需要なのかは別の問いである。時間外に取引した事実だけから、従来の取引所が失った資金量を計算することはできない。
小口化にも同じ注意が必要だ。一つの注文を何回かに分ければ、投下資金を変えずに取引件数を増やせる。一人が何度も売買すれば、利用者数を増やさずに件数を増やせる。価格が上がれば、同じ数量の売買でも金額は膨らむ。普及という言葉を使う前に、利用者の広がり、売買の頻度、扱った数量、動いた金額のどれを測っているかを決めたい。
図1|小口化の指標は取引件数の割合
小口注文の割合から、利用者数や売買金額の割合は分からない。
数量の単位は株相当。横軸は0–100%。残部から利用者属性や投資額の内訳を推定しない。
小口注文が多い市場の価値は、大口市場の縮小版だけではない。余剰資金を少しずつ配分したい人や、特定の値動きへの小さな参加を求める人にとって、最小投資単位を下げることには意味がある。一方、注文が小さいほど、定額の送金費用や口座管理費は投資額に対して大きくなる。小口化の便益を検証するなら、注文一件当たりの費用だけでなく、一定額を保有し続け、最後に資金を戻すまでの総費用を比べるべきである。
件数の成長を収益へ直結させない
事業者にとっても、件数増と採算改善は同義ではない。約定を細かく分ける仕組みは、照合や問い合わせを増やすことがある。注文をまとめて外部市場で処理すれば単位費用を抑えられる可能性があるが、その間の価格変動を誰が持つかが新たな論点になる。処理能力の増強と、経済的な危険の引受けは別の費用として把握する必要がある。
利用の裾野を追うには、同じ利用者が継続して参加しているか、注文が一部の自動売買に集中していないか、売買の後に保有残高が残っているかを組み合わせたい。これは研究結果を否定する条件ではなく、結果を事業の持続性へ結び付けるための追加情報である。少額参加の広がりと、必要なときに大きな注文を吸収する力を別々に評価すれば、市場の長所と弱点を同じ数字で説明する無理がなくなる。
同じ原資産でも価格は一本にならない
同じ企業の収益に連動する二つの商品なら、価格は近くなると考えやすい。しかし近づけるのは名前の一致ではなく、一方を売って他方を買う取引である。その取引を行う参加者が限られたり、資金移動に時間がかかったりすれば、価格差は残る。差が残っているだけで市場が壊れたとは言えず、差が小さいだけで両者の権利が同じとも言えない。
この関係を読むには、原資産の価格へ上乗せ、または差し引かれているものを分けるとよい。将来受け取る配当の処理、発行体への請求、保管先の事情、取引場所の注文状況、決済に用いる通貨が違えば、同じ時点でも参加者が求める価格は変わり得る。価格差の全てを原資産の将来予想と見なすと、商品固有の条件を企業見通しと取り違えてしまう。
図2|情報と取引は別の経路で価格を結ぶ
同じニュースへの反応だけで、二つの市場の交換可能性までは証明されない。
- 共通情報
企業の見通しや金利を参加者が更新
- 情報を評価
- 別々の注文
原株とトークンの市場へ各々の条件で発注
- 価格差を観測
- 実行可能な裁定
両市場を使える参加者が費用と資金を確認
これは因果関係を推定した実証図ではなく、情報経路と売買取引の経路を区別する分析図である。
たとえば、原株市場が閉まっている間に企業に関する情報が出れば、開いている市場の価格は先に動き得る。その動きには、将来の原株価格の見通しと、その時点で売りたい人と買いたい人の偏りが同時に入る。翌朝の原株価格が同じ方向へ動いても、前夜のトークン価格の全てが企業価値を正確に示していたとは限らない。どの成分が残り、どの成分が消えたかを見なければならない。
基準にする価格を選ぶ
画面の直近価格を比べるだけでは、古い約定同士を比較している可能性がある。重要なのは、同じ時点に、同じ数量を実際に売買できる価格である。買う側の価格と売る側の価格を区別し、手数料と通貨換算を入れた後にも差が残るかを確かめる。基礎的な読み方は表示価格・板・約定価格の違いで整理している。
この比較は、市場参加者が増えれば自動的に不要になるものではない。参加者が同じ保管先や同じ資金供給者に依存していれば、見かけの人数ほど独立した取引能力は増えていないからだ。普段は競争的な価格でも、共通の制約がかかった瞬間に提示が同時に薄くなる可能性がある。価格の近さを評価するときは、それを維持する参加者の独立性まで見る必要がある。
夜間価格は翌朝を動かしたのか
夜間のトークン価格と翌朝の原株価格が似た動きをしたとする。この観測には少なくとも二つの説明がある。一つは、夜間市場の売買が新しい情報を集約し、その価格を翌朝の参加者が参照したという説明である。もう一つは、双方の参加者が同じニュースを読み、それぞれ独立に似た評価へ到達したという説明だ。単に二つの価格が連動しているだけでは、どちらの経路が支配的かを決められない。
さらに、先に動いた市場が常に情報に優れるとも限らない。開いている市場だけが観測できる時間には、比較対象が止まっているため先行して見える。反対に、翌朝の大きな市場でより多くの注文が出会うことで、夜間に偏っていた評価が修正される場合も考えられる。時間の前後と、情報の正確さと、売買による影響の強さは別々の性質である。
因果を調べる比較の作り方
検証を進めるなら、ニュースが出た時刻をそろえ、同じ原資産について複数の取引場所を比較する。片方の市場だけが一時的に使えなくなった場面や、参加資格が変わった場面があれば、単純な相関より詳しく経路を調べられる可能性がある。ただし、停止や制度変更それ自体が不安を生んで価格を動かすこともあるため、それを外から与えられた純粋な実験と見なすには慎重な検討が要る。
もう一つ必要なのは、予測が当たったという評価と、取引で利益を得られたという評価の分離である。後から見た価格の方向が正しくても、その時点の売買差や送金費用が大きければ、実行可能な取引にはならない。売れた数量が少なければ、価格変化を大きな資金に適用することもできない。価格情報としての有用性を認めることと、収益機会を一般化することは同じではない。
役に立つ情報を、広げ過ぎずに評価する
企業や金融機関は、夜間の価格を翌営業日の準備に使えるかもしれない。たとえば注文の偏りを早めに把握して、人員や担保を用意する判断材料にはなり得る。しかし、価格の変化をそのまま企業価値の確定した変化として帳簿やリスク枠へ反映するかは別の判断になる。薄い時間帯の約定が一つ入っただけで大きな資産全体を再評価すれば、小さな市場の動きが必要以上に広く伝わる。
ここで見るべき反証は、夜間価格の変化が翌朝に繰り返し消えるのか、それとも費用を考慮しても安定した情報を含むのかである。対象ごと、時間帯ごと、相場が平穏な日と荒れた日ごとに分けることで、有用な場所と不向きな場所を特定できる。全ての夜間価格を信頼する必要も、全てを雑音として捨てる必要もない。
裁定取引は価格差の外側で止まる
裁定取引とは、関連する商品の価格差を利用する取引を指す。実際に差を縮めるには、割安な方を買うだけでなく、割高な方を売る手段も必要になる。両方を同じ時点に実行できなければ、途中で価格差が逆転する危険を持つ。したがって、価格差が見えていることと、その差を取り切れることの間には大きな距離がある。
トークンと原株の比較では、少なくとも三つの条件が重なる必要がある。両市場へ参加できること、売る資産と支払う資金を用意できること、取引後の保有形態を意図どおりに戻せることである。一つでも欠ければ、参加者は片側の価格だけを引き受けることになる。その危険を見込んで取引価格に余裕を持たせるのは、必ずしも非合理な行動ではない。
図3|価格差を閉じるための必要条件
画面上の価格差から、実行可能な交換へ進むには三つの検査が要る。
| 条件 | 確かめる対象 | 条件が欠けた場合 |
|---|---|---|
| 参加の接続 | 同一主体が両側で取引・償還できるか | 価格差を見ても交換経路に入れない |
| 在庫と資金の接続 | 売却資産、借入れ、決済通貨を使えるか | 片側だけ先に約定する危険を持つ |
| 時間の接続 | 受付、実行、引渡しが必要な期限に収まるか | 価格差より待機中の損失が大きくなり得る |
条件を満たすことは利益の保証ではない。費用、税、数量、契約上の制約を含む個別の実行条件が残る。
逆に、これらの条件が整えば、市場が地理的に離れていても価格差は縮まりやすくなる。重要なのは距離そのものより、資産と資金を動かす権限、手続き、時間である。取引場所を増やす施策と、既存の場所を結ぶ施策は、同じ普及策でも経済効果が違う。前者は新しい注文を呼び込む一方、後者は既にある注文の分断を小さくする可能性がある。
同じ参加者がどこまで完結できるか
発行体から直接償還できる事業者と、二次市場で売るしかない一般の保有者を同じ条件で扱うことはできない。前者が価格差を閉じても、後者はそのサービスの価格に依存する。一般の保有者にとっては、直接の交換権がなくても、複数の事業者が競争して換金を支えれば便利な市場になり得る。その場合の確認点は、直接権利の有無から、仲介者の競争と継続性へ移る。
依存先を調べる際には、取引所の表示だけでなく保管、送金、出金を分ける。取引所・保管・出金の点検項目は、その境界を整理するために役立つ。ある工程の改善を全工程の改善と呼ばず、待ち時間がどこへ移ったかを追うことが、価格差の持続を説明する近道になる。
保有権利は出口を決める
米証券取引委員会(SEC)の3部門が1月28日に示したスタッフ見解は、発行会社が関わるトークン化と第三者による商品を区別し、第三者の商品でも保管型と合成型で権利が異なると説明する。これは新しい法的義務を作る委員会規則ではない。[4] この区別を使うと、企業名が表示された商品について「その会社の株主になったのか」「別の発行体に支払を請求するのか」を分けて調べられる。
xStocksの公式説明は、自社商品を裏付けのあるトラッカー証書という債務請求権として位置付け、直接の株式所有や議決権とは区別する。[5] ここで裏付け資産の存在と株主の地位を同一視してはいけない。資産が裏付けになっているという説明は、保有者が誰にどんな条件で履行を求められるかという契約の確認に代わるものではない。
保有中の権利と、転換後の権利
さらに、保有している間の権利と、定められた手続きで別の資産へ転換した後の権利を区別したい。ある証書の保有者が直接の株主ではなくても、条件を満たして原株を受け取れる経路が用意されている場合はある。逆に価格が株式に連動していても、契約上の出口が現金だけという商品も考えられる。この違いは、普段の値動きが似ているときほど見落としやすい。
企業の経営に参加することを目的とする人と、短期間の価格変動に連動したい人では、この違いの意味が変わる。前者に必要なのは議決や権利行使の地位であり、後者には売買や換金の条件がより直接的な関心になる。ただし後者も、発行体への請求がどのように実現するかを無視できない。目的に不要な権利が省かれていることと、必要な支払まで不確実でよいことは別である。
契約を比較価格へ落とす
分析上は、同じ連動対象の商品を比較するとき、保有による利益の受取り方、権利行使、資産の引渡し、発行体に問題が起きた場合の請求先を項目別に並べるとよい。違いを認めた上で価格差を見るなら、それが単なる割安さなのか、異なる条件への対価なのかを考えられる。権利の基礎は株式の所有権と株主権で確認できる。
この整理は、最も多くの権利を備える商品が常に最良だという結論を意味しない。追加の権利を維持するには費用がかかる場合があり、必要のない機能を省いて小さな需要に応える設計にも合理性はある。大切なのは、価格を比較する前に買っている約束を特定し、その約束が目的と合うかを判断することである。
週末に換えられる商品もある
「原株市場が閉まれば発行体への償還も必ず止まる」という一般化は正しくない。Ondoの現行公式FAQでは通常の24時間・週5日に加え、SPYon、QQQon、CRCLon、NVDAon、TSLAon、GOOGLonの6商品に24時間・週7日の発行・償還を掲げる。直接利用には適格性と登録が必要で、停止例外もある。償還はステーブルコインによる現金価値の支払であり、同ページは原株を保有・受領する権利とは区別している。[6]
xStocksにも複数の経路がある。Market Flowは、登録済みの直接顧客向けに原株の売却を通じてステーブルコインへ戻す24時間・週5日の経路を説明する。[7] 別のxPortは、発行体とAlpaca双方の本人確認等、登録ウォレットを条件に、原株を証券口座へ戻す経路を示す。主要条件の営業時間は24時間・週5日である。[8] これらは公式に説明された設計であり、全保有者の利用資格や個々の処理実績を保証する記述ではない。
サービス時間を延ばす主体を探す
ここから得られる教訓は、営業時間の差を消す方法が存在しないということではなく、差を誰が引き受けるかを確認する必要があるということだ。発行体や仲介者が先に支払って後で原株を処理する設計なら、利用者の待ち時間は短くなる一方、その間の在庫と資金の負担は事業者へ移る。その負担を価格、準備資金、契約条件のどれで調整するかによって、サービスの持続性が変わる。
また、償還の受付が開いていること、見積りが提示されること、支払が終わることは別の時点である。全てを営業時間という一語でまとめると、利用者が必要とする期限との比較ができない。現金を受け取る経路と原株を受け取る経路では、その後に行いたい取引も異なる。前者が使えるから後者も即時に使えると推測せず、選んだ経路の終点を確認するべきである。
例外条件を価格の一部として読む
例外停止があるサービスを、停止の可能性があるというだけで無価値とする必要はない。重要なのは、例外が起きやすい場面と、その場面で利用者が最も換金を必要とするかの関係である。平穏な週末には便利でも、企業の重大発表や激しい値動きに際して条件が変わるなら、平均的な便利さと緊急時の価値は分けて評価する必要がある。
競争の評価も同様だ。公表された受付時間が長い事業者と、受付時間は短いが引渡しの予見性が高い事業者は、異なる需要に応え得る。単に最長時間を順位付けするより、どの条件で価格が確定し、どの資産がいつ自由に使えるようになるかを比べる方が、実務に役立つ。
変動率は同じ時計で比較する
実現変動率は5分対数収益率の二乗和の平方根。中央値はトークンが原株の約1.5倍だが、観測時間は24時間対米国通常時間と異なる。[2] この比率を、同じ保有期間で損失の危険が一定割合だけ増えたという意味に読み替えることはできない。
長く観測すれば、短い窓では見えなかった情報への反応も記録される。その反応が新しく作られた危険なのか、以前は市場が閉まっている間に蓄積して翌朝まとめて現れていた変化なのかを区別したい。取引時間の延長は、危険そのものを増やす場合も、見える時刻を分散させる場合もあり得る。この二つは、参加者が必要とする資金と対応要員に異なる影響を与える。
同時刻の比較と、一日の経験の比較
検証には二本の系列が必要になる。一方は、両市場が同時に開いている時間だけを切り出す比較である。これなら市場構造の違いを調べやすい。他方は、各商品の保有者が一日を通じて経験する価格変化の比較である。こちらは実際の担保や注文管理に関係する。どちらも有用だが、答えている問いが違うため、片方の結果で他方を置き換えないことが重要になる。
同じ時刻でも、約定が少ない市場では直近価格が長く動かず、その後にまとめて変わることがある。更新が多い市場と少ない市場を機械的に比べれば、観測方法の差を経済的な安定性の差と取り違える可能性がある。取引のない時間をどう扱ったか、売買価格の幅がどう変わったかを合わせて見れば、価格系列だけでは見えない事情が分かる。
リスク枠へ移す前に必要な検証
金融機関がこの種の指標を担保評価へ使うなら、平時の中央値だけでなく、実際に処分する必要がある時間帯の価格と数量を確かめたい。価格が動いた幅と、その価格で手放せる量は別である。少量の約定から計算した変動率が落ち着いていても、大量に売る局面で同じ価格を維持できるとは限らない。
反対に、一時的な価格変化が大きくても、少量ずつ処分でき、必要な資金を別に確保している参加者なら、その動きに耐えられる場合がある。商品に一つの危険度を付けるより、保有目的、処分期限、注文規模をそろえた比較が必要になる。統計を実務へ移す際の判断は、観測された数値を覚えることより、その数値が適用される条件を明らかにすることにある。
現金と証券の交換をどう結び付けるか
ニューヨーク連邦準備銀行の研究者は、即時決済と、証券と資金の最終引渡しを互いの条件にする決済を区別する。後者は取引成立後にも行える。[9] 金融安定理事会(FSB)も、DvP(証券と資金の条件付き受渡し)を単なる同時刻の処理と区別する。[10]
サービスを比較する利用者は、「アトミック」という名称から所要時間を推定せず、契約の成立時点、資産を準備する期限、失敗時の処理を工程表にして確認するとよい。成功した処理だけを測れば、資金が戻るのを待った取引は数字に表れない。金融機関が顧客へ約束できる時間を決めるには、通常処理と例外処理の両方が必要になる。
図4|正常処理と例外処理を同じ工程表に載せる
成功した処理だけでなく、期限超過と戻し方を事前に確認する。
- 約束を記録
顧客へ示した数量、価格、期限を対応させる
- 状態を照合
- 不足を特定
資産、資金、通信のどこで止まったかを分ける
- 期限で分岐
- 完了または解放
成功通知と、未完了時の責任・戻し先を決める
工程の概念図。実サービスの秒数、成功率、法的な最終性を示すものではない。
利用者にとっては、失敗時の振る舞いも成功時と同じくらい重要になる。片側の資産だけが準備できたとき、その資産はいつ解放されるのか。通信が途切れたとき、再送は重複した取引にならないか。取引をやめた利用者と、相手方がまだ有効だと考えている状態が食い違ったら、どの記録を基準にするのか。これらは単に処理を速くすれば消える問題ではない。
差引決済の効率と担保の拘束
資金の必要量を考えるため、資産運用会社が一つの銘柄を売って別の銘柄を買う場面を想定する。売却代金を購入代金に使えるなら、外から用意する現金は差額に近づく余地がある。しかし両取引を別々の場所で先に全額決済しなければならなければ、売却の完了を待つか、購入資金を別に確保する必要がある。これは仮想的な工程比較であり、特定市場の節約額を推計したものではない。
差引きが可能かどうかは、売りと買いの金額が見かけ上一致するだけでは決まらない。相手方、法的な相殺の範囲、処理の締切り、通貨、担保の扱いがそろう必要がある。利用者の資産一覧では同じ日に入金と出金があっても、運営者の契約上は結び付けられない場合がある。節約可能な資金を計算する際は、数学上の差額と、実際に払えばよい金額を分けるべきである。
待ち時間には便益と負担がある
少し待ってまとめる方式では、必要資金を減らす余地と引き換えに、未決済の約束が残る時間が生じる。早く終える方式ではその時間を短くできる一方、資産や現金を早く配置する負担が増える場合がある。どちらが安いかは、待っている間に必要な保護と、早く用意した資金の費用の比較になる。危険の種類を入れ替えているのに、片方の減少だけを総費用の減少として示してはいけない。
また、現金を置く負担は残高だけでなく拘束時間に左右される。同じ金額でも、注文が成立する前から使えなくなるのか、交換直前にだけ必要なのかで、他の取引に回せる余地が違う。処理時間の平均が短くても、失敗した取引で資金が長く戻らなければ、利用者は例外に備えて余分な残高を持つことになる。
資金の再利用が止まる場所を測る
比較したいのは、一日の売買総額だけではなく、同じ資金が何回使われ、その間にどこで待っていたかである。発行体、取引所、銀行、保管先の間をまたぐと、ある場所では解放済みでも別の場所ではまだ使えない時間が発生し得る。その間隔を短くする改善は、決済の名称を変えなくても資金効率を高める可能性がある。
反証となるのは、即時の交換でも資産や資金の再利用が円滑で、追加の残高をほとんど必要としない運営が安定して実現する場合である。そのときは、早い決済ほど常に資金効率が悪いという見方を修正する必要がある。逆に、差引きの仕組みがあっても多額の担保や安全資金が必要なら、名目上の相殺額だけで有利とは判断できない。比較の対象は、差引き前後の全ての拘束である。
どの通貨で最終受渡しを終えるか
国際的な金融市場インフラ原則は、流動性の備え、決済の最終性、決済資産の信用・流動性を別々に扱う。中央銀行マネーを使うことが実務上可能で利用できる場合はそれを選び、別の資産を使う場合はその危険を管理するという考え方である。[11] これはトークン専用の新規則ではなく、交換が終わる条件と、受け取ったものの性質を分けるための基礎になる。
トークンを売り、決済用の別のトークンを受け取れば、画面上の売買は完了する。しかし利用者の目的が銀行口座から支払うことなら、その後の換金と送金が残る。取引が成立したという記録と、最終的に使いたい支払手段を手にしたという状態を同じ完了時点にしてはいけない。企業の資金管理では、その間に必要な残高をどこが確保するかが重要になる。
同じ額面と、同じ支払能力
同じ通貨単位で表示された資産でも、使える相手と時間が異なれば、企業にとっての支払能力は同じとは限らない。額面が一致することは、どの債務にもそのまま使えることを意味しない。必要な相手が受け入れる資産へ変える費用と所要時間を含めて評価する必要がある。ステーブルコインの準備資産と償還条件は、この確認を始めるための解説である。
この違いは、平時には小さくても需要が集中したときに拡大し得る。多くの参加者が同じ支払手段へ換えようとすれば、個々の売買が速く終わっていても、換金先の処理が追い付かない可能性がある。逆に、受け取った資産をそのまま次の相手へ使える取引の輪が広がれば、外へ戻す必要が減ることもある。利便性は技術だけでなく、受取り手の広がりにも依存する。
完了を複数段階で表示する価値
運営者が利用者へ示す状態も、注文成立、トークン移転、換金受付、資金利用可能を分けた方が分かりやすい。各段階の責任者と次の予定が明らかなら、利用者は必要な支払に間に合うかを判断できる。全てを完了とだけ表示すれば操作は単純になるが、問題が起きた際にどこへ問い合わせるべきかが分からなくなる。
したがって、取引の成長を評価する際には、二次市場での回転だけでなく、最終的な資金利用まで追える運営が育っているかを見たい。売買が円滑でも出口の需要が小さい間だけ成立しているのか、出口が混んでも処理できるのかでは、企業が置ける資金の規模が変わる。受渡し速度の数字を経済的な信頼へ結び付けるには、この終点の確認が欠かせない。
参加者の時計をそろえる費用
市場を長く開けることは、単にサーバーを動かす時間を延ばすことではない。価格を提示する担当、資金を補充する担当、保管や照合を確認する担当、異常を止める担当が、必要な時刻に協調する仕組みを作ることである。自動化できる通常処理が増えるほど、人が判断する例外処理の位置を明確にする必要がある。
この費用は、サービスを開く時間に比例するとは限らない。平日の昼間と、原株市場が閉じた週末では、利用できる外部の手段が違う可能性がある。似た数の注文を処理しても、後者では価格を確かめる方法や資金を補う経路に余裕を持たせる必要があるかもしれない。運営時間を集計するだけでは、難しい時間帯を支える費用は見えない。
図5|一件の注文に重なる四つの時計
最も遅い工程が常に同じとは限らない。待ち時間は工程別に計測する。
- 受付利用資格の時計
取引できる主体か、必要な登録や許可が有効かを確認する。
- 約定価格の時計
提示価格がいつまで有効で、どの数量を引き受けるかを決める。
- 準備資産と資金の時計
必要な残高が、実際に使う場所へそろうのを確認する。
- 利用最終目的の時計
受領資産を次の取引や支払へ自由に使える状態にする。
一方向の標準手順を強制する図ではない。準備を先に行う方式など、実際の順序は設計によって異なる。
平均所要時間が改善した場合も、その内訳を見たい。資格確認が速くなったのか、注文相手が増えたのか、資金を先に多く置くようになったのかで、改善の意味が違う。最後のケースでは利用者の待ち時間が短くなっていても、運営者の資金負担は増えている可能性がある。速さと持続性を評価するためには、時間の短縮と残高の増加を同じ期間で比べる必要がある。
境界をまたぐ例外を設計する
複数のシステムが関わる場合、一つの場所では正常に終わり、別の場所では未処理という状態が問題になる。利用者が再操作すべきか、待つべきかを判断できる情報が必要であり、運営者には重複や取り消しを処理する責任の境界が必要になる。この境界が曖昧なまま処理量だけを増やすと、例外が少ない間は見えなかった人手の負担が急に現れる。
金融機関が採用を決める際は、平時の処理件数だけでなく、例外一件を解消するまでに関わる組織数や、資産を自由にできない時間を調べるとよい。ここが改善していれば、自動化が実際の運営負担を減らしたと評価しやすい。通常の処理だけが速くなり、例外を外部へ押し出したのであれば、全体の効率化とは区別する必要がある。
取引所間の流動性はどこに残るか
取引場所が増えると、利用者は入口を選べるようになる。その一方で、同じ経済対象への注文が複数の場所に分かれる。注文が互いに届くなら分散は競争につながるが、届かなければ各市場の厚みが薄くなる可能性がある。入口の数と、必要な数量を売買できる力を別々に測る必要がある。
価格提示者の立場では、どこに在庫を置くかが問題になる。全ての場所へ十分な資産を置けば注文へ応じやすいが、使われない残高も増える。一か所へ集めて必要に応じて動かすなら資金効率は改善し得るが、移動にかかる時間が注文への対応を制約する。流動性の分散は、単に注文を検索しやすくするだけで解決するとは限らない。
最良価格と、届く価格の差
利用者が全市場の最良価格を見られても、その場所へ取引権限と資金を持っていなければ、その価格は実行できない。価格表示を統合するサービスと、注文や受渡しまでつなぐサービスでは、提供する価値が違う。金融機関が接続投資を判断するときは、情報を集める段階、注文を送る段階、取引後に資産を戻す段階ごとに改善を評価したい。
薄い市場で起きた価格変化が、他の市場の評価に使われる場合もある。その参照先が自動的に切り替わらなければ、少ない約定が広い範囲へ伝わる可能性がある。反対に、複数の独立した価格を比較し、数量と更新頻度を条件に参照する設計なら、一か所の偏りを抑える余地がある。市場の数より、価格情報の選び方と接続の実態が重要になる。
参加が増えた後に確認すること
普及が進めば全て自然に統合される、という見方には条件がある。新しい参加者が既存の制約を共有せず、別の資金源や異なる時間帯の需要を持つなら、注文の厚みに貢献し得る。しかし同じ資金供給者から調達し、同じ価格を参照する事業者が増えただけなら、平時の競争が増えても緊張時の独立性は増えない。取引場所の増加を、危険の分散と直結させないことが必要になる。
金融機関の事業採算を分解する
トークン化サービスの収益性を考える際は、売買高に手数料率を掛けるだけでは不十分である。口座の登録、資格の更新、顧客対応、保管、権利に関する処理、価格提示、資金の補充が継続して必要になる。それぞれの費用は、利用者数、注文件数、保有残高、例外件数など異なる量に連動するため、一つの成長率で採算を説明できない。
たとえば小口利用者が増える事業では、売買金額が大きくなる前に、登録や問い合わせの費用が先行するかもしれない。大口の価格提示者を少数集める事業では、口座数が少なくても接続や資金枠の調整に大きな固定費がかかるかもしれない。両者は同じ取引高でも費用構造が違う。利用者の用途と事業者が引き受ける工程を対応させる必要がある。
費用を利用者へどう配るか
料金の設計にも選択がある。注文のたびに徴収する方式は頻繁に取引する利用者へ費用を配りやすく、保有残高に応じる方式は長く保有する利用者にも負担を広げる。売買価格の差に含める方式は操作を単純にするが、利用者には費用が見えにくくなる。どれも一律に悪いわけではないが、何のサービスへ対価を払っているかが分かる表示が必要になる。
利益が出ているように見える期間にも、将来の費用を蓄えている可能性がある。通常時の売買だけで収益を計算し、企業行動への対応や資産回収のような頻度の低い処理を別扱いにすれば、採算が良く見える。その費用を誰が最終的に負担するかを確認しない限り、低料金が技術の効率によるものか、まだ表面化していない負担によるものかは分からない。
規模が変える費用、変えない費用
取引量が増えるほど一件当たりの固定費は小さくなり得る。しかし資金の配置や価格変動を引き受ける費用は、処理件数の増加だけでは下がらない場合がある。ここを区別すれば、事業拡大による効率化の主張を検証しやすい。技術処理の単価が低下しても、資金を長く置く必要が増えれば全体の費用は別の動きをする。
企業が導入を評価する場合は、既存の経路と新しい経路で同じ利用目的を満たす条件をそろえたい。対象顧客、取引時間、保有期間、資金の戻し先が違う比較では、費用差の理由を特定できない。条件をそろえた上で、利用者の手間、運営者の残高、例外処理の負担がどこで減ったかを示せれば、宣伝上の速さを事業上の改善へ結び付けられる。
国際市場への波及を追う
世界の参加者が同じ原資産へ異なる時間帯に注文を出せるようになると、地域ごとの生活時間と原株市場の営業時間のずれは小さくなる。利用者が従来の開場を待たずに取引できることには便益がある。ただし、その需要を実際の原株の取引へ結び付ける仲介者の能力まで、利用者数と同じ速度で増えるとは限らない。
最初の伝達経路は、原株への発注である。トークンへの需要が発行や裏付け資産の調整につながるなら、仲介者の買付けが原株市場へ伝わる可能性がある。しかし既存の保有者同士でトークンが回転しているだけなら、その全額が新たな原株購入になるわけではない。トークンの売買高から現物市場への純流入を直接推計することはできず、発行残高と仲介者の取引を区別する必要がある。
資金と情報が別々に越境する
第二の経路は資金調達である。異なる地域の利用者が同じ決済通貨を必要とすれば、その通貨を供給する事業者への需要が増える可能性がある。利用者の取引時間が広がると、資金を補う時間帯も変わる。これは原株の値上がりを意味する話ではなく、取引を支える短期資金や換金サービスの需要がどこで生まれるかという問題である。
第三の経路は価格情報である。ある地域の取引が薄い時間に形成された価格が、他地域の担保評価や注文判断へ使われれば、資金が直接動かなくても影響は伝わる。ここでは取引量の大きさだけでなく、どの機関がどの価格を参照しているかが重要になる。小さい市場でも参照される範囲が広ければ影響を持ち得る一方、売買が増えても他の意思決定に使われなければ情報面の波及は限られる。
為替と地域制約を残したまま考える
海外資産への入口が簡単になっても、利用者の支出通貨と投資対象の表示通貨が違えば為替の影響は残る。商品への参加資格や居住地域による制限も、技術的に送れるという理由で消えるわけではない。国際的なアクセスの拡大を評価するなら、移転可能性、契約上の利用資格、実際の換金手段を別の軸で追う必要がある。
波及の大きさを判断する上では、取引の総額よりも、片側に偏った需要がどこへ集まるかを見たい。多くの市場が同じ資金供給者、同じ保管先、同じ原株の処理窓口を使っているなら、分散して見える売買が一つの場所へ集中する。逆に、独立した経路が増えて代替が働けば、地域の時間差を吸収する余地が広がる。国際金融への影響は、商品名の新しさより、この接続の構造に左右される。
制度が変えるのは可能な組合せ
制度面では、SECの9月17日付命令が、対象を限定したトークン化NMS株式の取引場所等へ一時的・条件付きの適用除外を設けた。9月22日に官報掲載され、対象の定義は合成的な価格連動商品を除き、対応する権利等を条件とする。[12] これを、あらゆる連動型トークンや特定の発行体への包括的な承認と読むことはできない。
一方、欧州中央銀行(ECB)の2025年6月報告は、2024年の試行で中央銀行マネーを用いた新技術の受渡しと技術的な全体成立・全体不成立を検証し、流動性の拘束や例外処理を課題に挙げた。[13] 法的な最終性は、前述の金融市場インフラ原則に沿って別に評価すべきである。[11] 限定した試行の成果は、常設市場全体の処理能力の実証とは区別する必要がある。
許可の対象と技術の対象をそろえる
この二つの背景資料は、制度や技術を一つの普及段階にまとめないために役立つ。ある制度が許す商品の権利と、ある技術実験が交換した資産の性質が違えば、成功事例をそのまま移せない。金融機関にとっての採用判断は、許可される業務、扱う商品、使える決済資産、必要な参加者が一つの運営として組み合わさるかという問題になる。
制度が明確になれば、事業者は将来の設計変更に備えた余分な費用を減らせる可能性がある。しかし明確化が必ず参加条件の緩和を意味するわけではない。対象商品の権利をそろえるために、照合や保管の工程が増える場合も考えられる。制度対応の費用と、権利が予見しやすくなる便益を同じ時間軸で比べる必要がある。
実験から常設運営へ移る境界
実験では参加者と取引の種類を限定できる。常設運営では、利用量の変動、取引をやめる参加者、新しく入る参加者、想定外の組合せを扱わなければならない。技術的に交換できたという成果を尊重しつつ、参加者の増減や障害時の責任まで評価を広げることが必要になる。これは実験の価値を低く見ることではなく、次に証明すべき対象を特定することである。
制度と技術の進歩を経済効果へつなぐには、承認や接続の件数だけでなく、繰り返し使われた取引、失敗した取引、解消までに拘束された資産を追いたい。継続運営の証拠が増えれば、金融機関は例外に備える余裕をより具体的に設定できる。その段階で初めて、利用者の利便性と運営費用を持続的な事業として比較しやすくなる。
強い反論を条件で検証する
第一の反論は、市場が成熟すれば価格差や注文の薄さは自然に小さくなり、現在の制約を詳しく論じる必要は薄れるというものだ。この見方が正しければ、参加者が増えるにつれて、同じ数量を売買する費用が低下し、複数の時間帯で安定するはずである。一方、売買が増えても直接の交換経路へ入れる主体が限られたままなら、価格差の縮小には限界が残る可能性がある。
第二の反論は、即時処理が例外や未決済の管理を減らすため、資金を早く用意する負担を十分に上回るというものだ。これは成立し得る。検証には、追加で置いた資金の費用と、減った照合・担保・失敗処理の費用を同じ業務単位で比べる必要がある。片方だけを測れば、どちらの方式も有利に見せられる。
図6|普及の三つの道筋と確認点
取引量が同じように増えても、独立した交換経路と運営費用の変化で評価は分かれる。
- 接続も改善する
複数の主体が両市場を行き来できる
価格差と処分費用が小さくなる余地
確認:同じ数量・同じ時刻の実行価格
- 注文だけが分散する
入口は増えるが資産移動は限定的
場所ごとに薄い注文が残る可能性
確認:移動時間と提示数量の偏り
- 仲介負担が集中する
少数の事業者が時間差を吸収する
通常時の便利さと停止時の集中が併存
確認:代替経路と資金供給者の独立性
予測確率や投資判断ではない。観測結果に応じて評価を変えるための条件分岐である。
第三の反論は、価格に連動したい利用者には原株の権利や直接償還は不要で、二次市場で売れれば十分だというものだ。短い保有や小額の参加では合理的な選択になり得る。ただし、その便益は二次市場を支える事業者が継続して応じることを前提とする。直接の権利を必要としないことは、間接的な依存が存在しないことを意味しない。
不利な結果も説明できる枠組みにする
支持する見方にも批判する見方にも、反証の条件が必要である。費用が下がり、異常時の処理も改善しているのに、仕組みが新しいという理由だけで評価を据え置くべきではない。逆に、利用が増えても価格提示が一部の主体に偏り、例外時の待ち時間が長いなら、件数だけで成熟を宣言するべきではない。
このように条件を置けば、議論をトークン化への賛否に閉じずに進められる。どの用途では便益が費用を上回り、どの用途では別の方式が適するかを判断できるからである。単一の技術が全ての利用者を置き換えるという見方より、異なる方式が目的に応じて共存する可能性を含めた方が、観測される市場の変化を説明しやすい。
次に観測すべき指標
次の検証では、利用の拡大と交換の能力を同じ期間で測る必要がある。取引量が増えた日に、実行価格の幅、提示される数量、資金が戻るまでの時間がどう変わったかを重ねる。成長率の高い系列だけを選ぶのではなく、利用者の目的が完了したかを示す系列と対にすることで、市場の改善を評価しやすくなる。
標本の固定も重要になる。商品を追加するたびに市場全体の平均が変わるなら、既存商品の改善が分からなくなる。継続して存在する原資産・発行体・取引場所の組合せと、新たに加わった組合せを分けて追う必要がある。これは特定の結論を得るための調整ではなく、何が変わったのかを比較できる形にするための条件である。
図7|主張と検証データを対にする
普及、価格情報、交換能力、事業効率は別の証拠で確かめる。
| 確かめたい主張 | 必要な比較 | 評価を弱める観測 |
|---|---|---|
| 新しい需要が加わった | 継続利用、保有残高、既存経路との重複 | 同じ主体の細分化や回転だけが増える |
| 価格情報が有用になった | 同じニュース時刻・原資産・実行費用 | 一時的な偏りが翌市場で繰り返し消える |
| 交換しやすくなった | 同じ数量の約定と、終点までの所要時間 | 取引後の資産拘束や出口の集中が増える |
| 事業費用が下がった | 資金、通常処理、例外処理の合計 | 低料金の裏で別主体の負担が増える |
調査設計の提案。全項目について実測結果が得られたという意味ではない。
運営上の実績には、成功した取引だけでなく途中で取りやめた要求も含めたい。成立した取引だけを測れば、難しい条件の利用者が入口で諦めた場合にも、平均は良く見える。拒否、取り消し、停止、再開の理由を分けて集計することで、サービスの範囲と限界をより正確に示せる。
平均から外れる場面に注目する
例外が増える場面を分けることも必要だ。企業の重大な情報が出た日、原株と決済通貨の市場が異なる動きをした日、利用者の売却が偏った日では、必要な運営能力が異なる。全てを一つの平均にまとめると、平時の改善が難しい場面の悪化を覆い隠す可能性がある。
これらの情報がそろえば、判断は単純な普及の有無から進む。どの市場を接続すべきか、どの時間帯に資金を置くべきか、どの商品の権利をそろえるべきかを具体的に比較できる。市場構造の研究が事業者や政策当局に役立つのは、取引の新しさを証明するときだけでなく、次の改善点を検証可能な形にするときである。
需要の証明から運営の証明へ
価格情報と引渡し能力を別々に測ることで、次に必要な検証が明確になる。需要を経済的な便益へつなぐには、価格情報、権利、資金、受渡しを一続きの運営として検討する必要がある。売買画面が動いているという事実だけでは分からなかった条件を明らかにすることが、次の段階になる。
価格の側では、同じ原資産に対する複数の市場を、同じ時刻と数量で比べることが出発点になる。時間外の価格が役に立つかを問うなら、共通情報への反応と市場固有の偏りを分け、実行費用まで含めて検証する。利用の側では、小口の件数を資金の広がりへ読み替えず、何を目的とする利用者が継続して参加しているかを追う必要がある。
改善を一つずつ積み上げる
受渡しの側では、権利と資格をそろえ、資産と支払をどの時点で交換するかを決める。速さが改善したら、そのために増えた残高や例外時の負担も確認する。資金効率が改善したら、待っている間の約束を誰が保護するかを確認する。こうして別々の効果を積み上げれば、全てを一つの方式で解決するという前提を置かずに、具体的な進歩を評価できる。
今後の焦点は、取引の成長が、独立した交換経路と持続的な運営を伴うかである。新しい参加者が増え、同じ条件の取引費用が下がり、難しい場面でも資産を予定どおり使えるなら、市場の改善を支持する証拠は強まる。逆の観測が出れば、接続や資金の設計を見直す必要がある。需要の存在を確認した後に問うべきなのは、その需要をどの条件で支え続けられるかである。
よくある質問
1.取引件数が増えれば、市場へ入った資金も増えたといえるか。
件数だけでは判断できない。同じ注文の分割や、同じ主体の反復売買でも件数は増える。利用者の継続、保有残高、発行と償還、原株への取引を分けて確認する必要がある。
2.原株市場が閉まっている間の価格は、翌朝の確定価格なのか。
確定価格ではない。共通のニュースへの評価に加え、その時間の注文の偏りや商品固有の条件が入る。翌朝に残る成分と消える成分を比較し、同じ数量を取引できる価格かも確かめる。
3.トークンの価格が原株に近ければ、同じ権利を持つのか。
価格の近さだけでは権利を特定できない。契約上の請求先、利益の受取り方、権利行使、引渡しの条件を別に確認する。似た価格で取引されることは、その確認の代わりにはならない。
4.営業時間が長い商品ほど、いつでも必要な現金に戻せるのか。
売買、償還の受付、支払完了、銀行口座で使える状態は別の段階である。利用資格と選んだ経路の条件を確認し、最終的に必要な支払手段までの時間を比べる必要がある。
5.条件付きで双方を交換する仕組みなら、必ず即時決済になるのか。
交換を成立させる条件と、条件を判定する時点は別に設計できる。利用者の目的に対して、待ち時間、資金の拘束、失敗時の戻し方がどう組み合わさるかを比べる。
6.差引決済があれば、外から用意する資金は不要になるのか。
入出金の差額だけで決まるとは限らない。相殺できる範囲、時間、通貨、担保、未成立の取引への備えが残る。全ての場所で拘束される資産と現金を含めて比べる必要がある。
7.小さい市場でも、他の金融市場に影響する可能性はあるか。
価格が担保評価や注文の参照に使われれば、直接の資金移動とは別に情報が伝わり得る。ただし、可能性と実際の影響は別であり、参照先、数量、共通の依存先を確認しなければ規模は判断できない。
8.普及が進んだと判断するには、次に何を見るべきか。
利用増に加え、同じ数量の実行費用、資産を再利用できるまでの時間、例外の解消、交換経路の独立性を追う。件数や公表された営業時間だけで、運営が成熟したとは判断しない。
出典・参考資料
- IMF:2026年10月版GFSR公開予定
- IMF:2026年10月版「国際金融安定性報告書」(GFSR)第3章
- IMF:What Is Needed for Tokenization to Deliver
- SECスタッフ:Statement on Tokenized Securities
- xStocks:Product Legal Overview
- Ondo Stocks:公式商品説明・FAQ
- xStocks:Market Flow
- xStocks:In-Kind Flow(xPort)
- ニューヨーク連銀研究者:What Is Atomic Settlement?
- FSB:The Financial Stability Implications of Tokenisation
- CPMI・IOSCO:金融市場インフラ原則
- SEC:Release 34-106402
- ECB:新技術によるホールセール中央銀行マネー決済の試行報告
本記事は公開資料に基づくニュース解説です。商品ごとの契約、利用資格、地域制限、運営条件は異なり、変更されることがあります。図2–7は比較と検証のためのSG Group独自整理で、実測値や将来の成果を示す図ではありません。特定商品の売買を推奨するものではありません。