Learn — ロット計算シリーズ 09
複数のFX・CFDを同時に持つと、1取引ごとのリスク計算だけでは全体像が見えません。まず各損切り損失を口座通貨で合計してgross open riskを出し、そこから通貨・指数の共通因子、方向、相関、同時ストップ、証拠金の合算まで分解します。本記事は、個別1%でも合計3%になる架空ケースを軸に、複数ポジションのリスク計算を単位付きで整理し、無料ロット計算機での確認手順と複数ポジション分析の考え方をつなぎます。
この記事の要点
結論
複数ポジションのリスク計算は、まず各ポジションの損切り時の想定損失をすべて口座通貨へ換算し、単純に合計するところから始めます。これがgross open risk、つまり全部が同時にそれぞれの損切りに達したときの最悪時の損失予算です。ただしこの単純合計は出発点にすぎません。実際には、同じ通貨や同じ指数への共通因子、ポジションの方向、相関、そして証拠金の同時消費まで分解して初めて、本当のリスクの偏りが見えてきます。
特に見落としやすいのが、個別に1%ずつのリスクで設計しても、共通因子が重なると1つの値動きで複数のポジションが同時に損切りされ得る、という点です。3つで合計3%のはずが、USDロングに偏っていればUSDが逆行しただけで2ポジションが同時に効き、実質2%が一度に動きます。取引量そのものの決め方はFX・CFDロット計算の完全ガイドにまとめており、本記事はそこで決めた各ポジションを、口座全体でどう合算して見るかに集中します。
以下の数値・図表はすべて架空の教育用データで、実在する価格・契約仕様・成績ではありません。金額の大小そのものではなく、合算と分解の手順を読むためのものです。
用語と前提
合算の話に入る前に、登場する言葉を単位付きで整理します。定義は業者や文脈で表現が変わり得るため、ここでは一般化した教育用の呼称として扱います。
各ポジションを口座残高の何%のリスクで設計するかという1トレード単位の考え方は1トレードあたりのリスク割合の記事で扱っています。本記事は、そこで決めた1%・2%を複数本まとめたときに何が起きるかを見る位置づけです。
合計する
合算の第一歩は、各ポジションの損切り想定損失を同じ口座通貨(ここでは円)にそろえることです。1本あたりの想定損失は次の式で求めます。
ここで大切なのは換算レートの向きです。外貨建ての損失は、口座通貨へ直す向きで換算します。たとえばEUR/USDを売って建玉通貨(USD)での損失が約66.7 USDになる場合、口座が円建てならUSD/JPY=150.00の向き(1 USD=150円)で掛けて、66.7 USD × 150 ≒ 10,000円とします。この向きを逆にすると損失額が桁違いになるため、必ず「建玉通貨の損失 × その通貨を円へ直すレート」で計算してください。円建て価格の通貨ペア(USD/JPYなど)は換算レートが1になります。
1lotあたりの価値や損切り幅から個別のロットを決める式そのものはFXロット計算の公式で扱っています。本記事の合算表では、各ポジションの「1pip/pointあたり価値(円・lotと換算込み)」をあらかじめ折り込んだ値として示し、損切り幅を掛けるだけで想定損失が出るようにしています。
偏りを見る
合計額(gross open risk)だけでは、「どの因子に偏っているか」は見えません。ここで通貨・指数への偏りを、方向つきで集計します。異なる銘柄でも、構成通貨に分解すると同じ因子が重なることがあります。
典型例が、EUR/USD買いとGBPUSD買いを同時に持つケースです。銘柄は違いますが、どちらもUSDショート側なので、USD要因が二重に乗ります。USDが上昇(EUR・GBPが下落)すれば両方が同時に逆行し、単純合計以上に一方向へ偏った状態です。逆に、一方が買い・他方が売りでUSDの向きが打ち消し合えば、net exposureは小さくなり、gross(総量)は大きくてもnet(正味)は軽い、という見え方になります。
だからこそ、通貨別にnet(相殺後)とgross(総量)を併記すると、見た目より偏っている状態や、逆に思ったよりヘッジが効いている状態に気づけます。株価指数CFDのように商品自体が特定通貨建て・特定地域のリスクオンに連動する場合も、同じ因子として扱います。CFDの契約サイズやpoint価値の考え方はCFDのロット計算方法で解説しています。なお、この集計はあくまで偏りに気づくための概念整理であり、売買の推奨ではありません。
架空ケース
ひとつの架空データセットを、この先の表・図・ワークシートで最後まで使い回します。口座残高は1,000,000円、各ポジションは残高の1.0%(10,000円)で損切りを設計した、という前提です。以下はすべて教育用の架空例で、実在の価格・契約仕様ではありません。
| ポジション | 方向 | 損切り幅 | 価値(円・lot換算込) | 想定損失 | 残高比 | 主な共通因子 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| USD/JPY | 買い | 50 pips | 200円/pip | 10,000円 | 1.0% | USDロング・リスクオン |
| EUR/USD | 売り | 40 pips | 250円/pip | 10,000円 | 1.0% | USDロング |
| US30 | 買い | 25 pts | 400円/pt | 10,000円 | 1.0% | リスクオン |
| gross open risk | — | — | — | 30,000円 | 3.0% | 単純合計(方向無視) |
gross open riskは30,000円(残高比3.0%)です。各行の「価値(円)」は、外貨建てのEUR/USDやUS30についても、1lotあたりの価値に数量と円換算を折り込んだ値として示しています(例:EUR/USD売りの10,000円は、建玉通貨USDでの約66.7 USDの損失をUSD/JPY=150で円換算したものです)。ここまでは単純合計で、まだ因子の重なりは反映していません。
問題はここからです。3ポジションを共通因子で見直すと、USD/JPY買いとEUR/USD売りはどちらもUSDロング、USD/JPY買いとUS30買いはどちらもリスクオンに偏っています。因子ごとに損失を集計すると、次の偏りマップのようになります。
gross open riskは3.0%ですが、USDが逆行する1つの値動きだけで2.0%(USDロングの2ポジション)が同時に動き、リスクオフの1つの値動きでも2.0%(リスクオンの2ポジション)が同時に効きます。「3本に分散したから1本あたりのリスクは軽い」という感覚と、実際に単一因子で動く額は大きく異なります。これが、単体計算の積み上げだけでは複数ポジションの全体像が見えない理由です。
各ポジションの推奨ロットや損失・証拠金は無料ロット計算機で単体として確認できます。一方、複数の建玉をまたいだgross open risk、通貨・指数の偏り、相関、合算使用率を一画面で見るのは、複数ポジション分析の領域です。単体計算では解けない「共通因子の同時損失」を扱う段階に来たら、機能の範囲を比較して検討してください。機能・範囲・料金は変わり得るため本文には固定しません。
相関
因子の重なりを数値で見る道具のひとつが相関です。ただし相関は−1〜+1の間で動く変動値で、期間・時間軸・相場局面によって変わります。平常時に低くても、急変時には多くの資産が同じ方向へ動きがちで、いちばんリスクが集中する局面ほど相関が上がることも珍しくありません。次は3銘柄の相関行列の教育例です。
| 相関 | USD/JPY | EUR/USD | US30 |
|---|---|---|---|
| USD/JPY | 1.00 | -0.60 | +0.55 |
| EUR/USD | -0.60 | 1.00 | +0.20 |
| US30 | +0.55 | +0.20 | 1.00 |
色(青=正、赤=負)だけでなく、符号と数値を必ず併記しています。ここで注意したいのは、行列そのものは銘柄間の関係であって、いま持っているポジションの方向を掛け合わせて初めてリスクの重なりになる、という点です。この例ではUSD/JPYを買い・EUR/USDを売っているため、両者の−0.60という負の相関は、方向を考えると「同じUSDロング方向に効く」ことを意味します。相関の符号を機械的にヘッジと読み替えると誤ります。
そして最も重要なのは、低い相関を理由に、gross open riskから自動的に損失を差し引かないことです。過去に相関が低かったからといって将来もそうとは限らず、急変時に相関が跳ね上がると、減額した分だけ損失を過小評価します。相関は「因子の重なりに気づく材料」として使い、損失予算そのものは保守的にgrossで見るのが安全です。戦略ごとの損失特性や、条件が変わったときの振る舞いを検証する考え方は戦略の損失特性・堅牢性を検証するワークベンチも参考になります。
ストレス
通常の損切り損失と、急変時の損失は混ぜないことが大切です。ストップ注文は指定価格での約定を保証せず、窓開け・急変・流動性低下・スリッページがあると、想定した損切り幅を超えて損失が拡大することがあります。そこで、合算表には通常ストップの行と、ストレスの行を分けて持ちます。
| ポジション | 通常ストップ損失 | ストレス損失(仮定) | 差 |
|---|---|---|---|
| USD/JPY 買い | 10,000円 | 15,000円 | +5,000円 |
| EUR/USD 売り | 10,000円 | 15,000円 | +5,000円 |
| US30 買い | 10,000円 | 20,000円 | +10,000円 |
| 合計 | 30,000円(3.0%) | 50,000円(5.0%) | +20,000円(2.0%) |
通常時のgross open riskは30,000円(3.0%)ですが、ギャップやスリッページを仮定したストレス行では50,000円(5.0%)まで膨らみます。指数CFDのように急変時のギャップが大きい商品ほど、この差が広がります。ストレス損失は「保証された数値」ではなく、あくまで仮定を置いた別枠です。通常ストップ損失をリスク予算の設計に、ストレス損失を余力の確認に使い、両者を混ぜないでください。含み損の拡大に対する証拠金側の耐性は、次の証拠金合算のセクションで確認します。
証拠金の合算
損失予算とは別に、複数ポジションでは必要証拠金の合算も見ます。各建玉の必要証拠金を足し合わせ、合計使用率と余剰証拠金で口座全体の余力を確認します。
| ポジション | 必要証拠金 | 想定損失 | 主な共通因子 |
|---|---|---|---|
| USD/JPY 買い | 120,000円 | 10,000円 | USDロング・リスクオン |
| EUR/USD 売り | 180,000円 | 10,000円 | USDロング |
| US30 買い | 100,000円 | 10,000円 | リスクオン |
| 合計 | 400,000円 | 30,000円 | 使用率 40.0% / 余剰 600,000円 |
合計必要証拠金は400,000円で、口座残高1,000,000円に対する合計使用率は40.0%、余剰証拠金は600,000円です。注意すべきは、同一通貨や同一指数に偏っていると、値動きが同時に効いて評価損益がまとめてマイナスに振れ、この余剰証拠金が想定より速く削られる点です。含み損は現在価格で評価する未確定の損益で、証拠金維持率やロスカット判定に効きます。損切り時の想定損失(リスク予算)とは役割が違うので、区別して見てください。
単体の必要証拠金・使用率・実効レバレッジの計算そのものは必要証拠金・証拠金使用率・実効レバレッジの計算方法で詳しく扱っています。ここで示した合算使用率はあくまで単純合計の概算で、業者の正式な証拠金維持率計算やロスカット水準を置き換えるものではありません。維持率の定義・評価対象・ロスカット水準は、必ず利用する口座の公式仕様でご確認ください。
確認手順
ここまでの合算の流れを、下の教育用ワークシートで体感してください。3ポジション分の想定損失・必要証拠金・共通因子タグを入れると、gross open risk、残高比、合計必要証拠金、証拠金使用率、余剰証拠金、そして因子別の同時損失集計を表示します。相関による自動分散控除や売買判断は行いません。JavaScriptが無効でも、直後の静的な計算表で同じ入力例・式・答えを確認できます。
| 項目 | 式と代入 | 答え |
|---|---|---|
| gross open risk | 10,000 + 10,000 + 10,000 | 30,000円 |
| 残高比(gross) | 30,000 ÷ 1,000,000 × 100 | 3.0% |
| 合計必要証拠金 | 120,000 + 180,000 + 100,000 | 400,000円 |
| 証拠金使用率 | 400,000 ÷ 1,000,000 × 100 | 40.0% |
| 余剰証拠金 | 1,000,000 − 400,000 | 600,000円 |
| USDロング因子 | 10,000(USD/JPY買い)+ 10,000(EUR/USD売り) | 20,000円 ・ 2.0% |
| リスクオン因子 | 10,000(USD/JPY買い)+ 10,000(US30買い) | 20,000円 ・ 2.0% |
ルール設計
合算リスクや因子の偏りが見えたとき、それをどう抑えるかは個別銘柄の売買判断ではなく、事前に決めるルール設計として扱います。以下は考え方の例で、特定の売買を勧めるものではありません。
これらは「安全なロット」や「必ず守れるリスク量」を保証するものではなく、あくまで見落としを減らすための自分向けの枠組みです。同一銘柄・同一方向へ積み増すナンピンやピラミッディングでは、平均取得価格が動き、共通因子への偏りが一段と強まります。追加エントリー前の総リスクと平均価格の求め方はナンピン・ピラミッディングの平均価格と総リスク計算で扱っています。
回避
複数ポジションのリスク計算での誤りは、いくつかの型に集約されます。心当たりがあれば、その項目が見直しの入口です。
実務チェックリスト
次の項目を、複数ポジションを組む前に一度ずつ確認します。合否や売買判断を出すものではなく、合算での見落としを減らすための手順です。
段階
この記事で扱った合算リスク・偏り・相関・証拠金合算のうち、どこまでを無料で確認でき、どこからが上位の機能かを課題別に整理します。単体計算で解ける範囲は無料で十分で、単体では解けない課題が出てきた地点で上位を検討する、という段階設計です。機能名・提供範囲・料金は変わり得るため、最新はプランページを唯一の正としてご確認ください。
| 課題 | 無料 | Pro | Premium |
|---|---|---|---|
| 単一ポジションの推奨ロット・損失・証拠金 | ○ | ○ | ○ |
| 複数ポジションの合算リスク(gross) | — | ○ | ○ |
| 通貨・指数への偏り集計(net/gross) | — | ○ | ○ |
| 相関リスクの参照(教育的) | — | ○ | ○ |
| ナンピン/ピラミッディングの平均価格・総リスク | — | ○ | ○ |
| 基本的な証拠金維持率分析 | — | ○ | ○ |
| 暗号化Vault・継続管理・リスク予算 | — | — | ○ |
| 急変・窓開け・スリッページ込みストレステスト | — | — | ○ |
この記事の合算・偏り・相関・証拠金合算は、単体では見えない課題が出てきた地点で上位を検討する材料です。単体の必要証拠金の確認で足りるうちは、無料の範囲で十分です。
FAQ
まとめ
複数ポジションのリスク計算は、各損切り損失を口座通貨で合計してgross open riskを出すところから始まります。要点は、単純合計は最悪時の損失予算の出発点にすぎず、通貨・指数の共通因子、方向、相関、同時ストップ、証拠金の同時消費まで分解して初めて、本当の偏りが見えるということです。架空例では、個別1%・合計3%でも、単一因子の逆行で2%が同時に動きました。
実務では、(1)各損失を換算の向きに注意して合計し、(2)共通因子ごとの同時損失をnet/grossで集計し、(3)相関は参考にとどめて自動減額せず、(4)通常損失とストレス損失を分け、(5)必要証拠金を合算して余力を見る——この5点を押さえれば、複数ポジションの見落としは大きく減らせます。
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LC10:ナンピン・ピラミッディングの平均価格と総リスク計算|追加エントリー前のリスク予算 — 同一銘柄へ積み増すときに、平均取得価格と総リスクをどう分けて計算するかを確認できます。
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